Translation: Yoshiko Ohmori (yoshikoo@green.ocn.ne.jp)

製品はあらゆる環境問題の源となります。汚染、森林破壊、
種の絶滅、地球温暖化などの大きな問題はすべて、衣食住や
交通、そして今日の市場への絶え間ない消耗品の流通などの
消費活動がもたらしているものです。環境と社会の抱える問
題は以前にも増して大きな問題となりました。そして、デザ
インの分野においても環境保護のために極めて重大で新しい
役割が求められています。

多くの美しい見かけを持つ製品の背後には消費者の知らない
醜さが隠されています。その醜さはしばしば、デザイナーに
も見えないことがあります。当サイトでは製品の持つ環境的、
社会的影響を白日のもとにさらし、「均整のとれた美しさ」
を持つデザインを生み出すにはどうしたらよいかを伝えたい
と思います。持続可能な製品こそが人間と地球環境にとって
最良であり、より多くの利益をもたらします。

問題のひとつは、デザイナーは製品の形や機能の改良にばか
り気をとられて、製造過程、つまり、どうやって製品が作ら
れるかについては、ほとんど注意を払わないことにあります。
原材料の抽出が引き起こすダメージや加工工程が生み出す汚
染など、製造過程は多くの環境的、社会的影響をはらんでい
ます。それに、生産者の責任の概念も問題です。製品は売れ
た後も消えてなくなりはしません。いかなる製品もその役目
を終える日がきます。役目を終えた製品は、どこに行くので
しょう?

デザイナーや分別のある消費者はきれいなうわべの向こう側
にあるものに目を向けるようになりました。例えば、美しい
外見のイスが一脚あったとしましょう。
しかし、製造過程で
汚染をもたらしたり、労働者を酷使して製造されているも
のでも、その製品が人類の技術の最高峰を象徴するものと
いえるでしょうか?
当サイトでご紹介するソリューション
の「均整のとれた美しさ」は、上質のリサイクルプロセス、
完璧に作りこまれたエネルギーの流れ、そして一皿料理にし
て食することだってできるほど安全な原材料にまで及びます。

当サイトでは持続可能性について革新的かつシンプルな枠組
みを示したいと思います。循環系・太陽系エネルギー・安全
は理解しやすいプロトコルで、これらを通じて製品とその製品
がどうすればより長く持続性を保つことができるかについて理
解できます。これらのプロトコルは、製品をデザインしたり購
入を検討するときに短期間で簡単に利用できます。

環境問題は複雑なので、分かりにくいと思われるかもしれませ
ん。このサイトのコンテンツは長年の経験と数百の製品開発を
通して得た知識をもとに構成されています。読んでいただけれ
ば、持続可能なデザインに取り組むにあたっての、適切なアプ
ローチが分かるでしょう。

高価で長期間を要する「ライフサイクル・アセスメント」研究
を行っている企業もありますが、企業が実際に行っていること
についての私共の研究結果は事実を非常に分かりやすく示して
います。500の製品を調査した結果、99パーセント以上が11の
基本的な開発原理を用いています。つまり、製品が環境に与え
る影響を理解するのは一筋縄ではいきませんが、開発ルートの
選択肢は比較的少ないのです。そして、ほとんどのルートで、
環境パフォーマンスは改善されうるといっていいでしょう。

害のないように見える製品が
環境を脅かしている

と言うと、驚かれるかもしれませんが、環境問題のほとんどは
製造過程で生み出される副次的な害と、製品の使用と廃棄によ
って引き起こされています。製品をよく見てみると、その製品
によってどんな問題が起こるかが分かります。1トンの製品が
消費者の元に届くごとに、30トン以上ものゴミが出ます。そし
て、消費者の元に届いた後の製品の98パーセントが半年以内に
捨てられるのです。このプロセス全体のエネルギー効率はおよ
そ2パーセントということになります。

すでに多くの改良が行われています。何十億ポンドもの大金が
工業界をきれいにするのに使われ、環境保護に関する法律は日
に日に厳しくなっていきます。けれども、それで十分と判断し
ていいのでしょうか? 答えは、はっきりとノーです。環境は
まだまだひどい状態のままです。問題は「合法的な汚染」です。
つまり、企業はあるレベルに達しない限り、煙を大気に排出し
たり、有毒物質を水の中に垂れ流すことが認められているので
す。あなたも、自動車を運転する時には、大気を汚染すること
が法的に認められています。しかし、法に触れていないからと
いって、正しいことをしているとは言えません。

多くの汚染問題は原料を加工する際に起こり、製品となったも
のが末端に行き渡った後には高価なエコ装置と組み合わせて使
用されます。それならば、はじめから汚染の起こらないような
加工方法をデザインしたほうが、ずっと洗練されていて効率が
よいのです。環境建築家のビル・マクドナー氏は、「規制をす
るのは設計(デザイン)が失敗した証拠だ」と言っています。

紙のリサイクルや濃縮洗剤など、環境汚染の源として「常に疑
いがかけられやすい」ものに関してはかなりの改善が行われて
いますが、ハイファイオーディオ機器、ゴルフクラブ、ドアノ
ブ、口紅など、視野をもっと大胆に広げて身の回りの製品に目
を向けていく必要があります。

重要なのは、デザイン

意識する、しないに関わらず、製品のデザインとその製造過程
の設計が環境への影響を決定づけます。工場のエンジニアと環
境マネージャーは自分の職場内の排出を削減したり、ゴミを減
らすことはできますが、そのようなやり方では改善できる範囲
に限界があります。デザインこそが、製品とその副産物の環境
優先度を大幅にアップさせることができるかどうかの介入ポイ
ントになります。アーサー・D・リトル氏が1999年に行った調
査によると、産業界の上級管理職者の55パーセントが、自社の
持続可能性はまさにデザインにかかっていると指摘しています。

持続可能な製品とはそのライフサイクルを通して完全に自然と相反しない製品を指す

例えば、持続的なサイクルの一部として作られている素材、大
気や水に残留するような毒を排出しない方法で生み出されるエ
ネルギーなどが持続可能といえるでしょう。栽培した植物の繊
維から作った厚紙を使用した梱包材など、いくつかの持続可能
な製品は、現存の生態系の一部となります。梱包材としての役
目を終えたところで、その素材はたい肥となり土に帰るのです。
そうした製品は、ほぼ現存の生態系、「生態圏」内にあるもの
と考えることができます。他のタイプの持続可能な製品は、
「人類の科学技術的行動圏」の範疇を超えたものといえますが、
似たようなプロトコルに従っています。

例えば、回収されたリサイクル材を原料とするアルミニウムは
現在、「都市部で採れる鉱物」または「地上にある鉱物」とし
て知られており、高品質で軽い車体を作るのに適しています。
アルミニウムはバイオマスまたは小規模の水力発電のエネルギー
を用いて溶解されます。そして、自動車が廃車となった後はま
た回収されてリサイクルされます。

環境にそれほど多くの影響を及ぼさない製品デザインもありま
す。例えば、フィリップ・スタルク製の歯ブラシは魅力的な形
をしていますが、製造方法は他の歯ブラシと同じで、環境にと
っては良い影響も悪い影響も及ぼしません。しかし、デザイナー
がもしハンドル部分にクロムめっきの材料を選ぶと、その歯ブ
ラシは環境に悪い影響を及ぼすことになるでしょう。さらに悪
いことに、クロムめっきは汚染物質として悪名高いのです。持
続可能なデザインを心がけるデザイナーなら、フィリップ・ス
タルクが作った歯ブラシのような、魅力的でエキサイティング
な歯ブラシがどのように作られたかに注目し、その環境的、社
会的影響にも注目することでしょう。ナイロン素材の代わりに
より耐久性のある天然ゴム製の毛を使うことで、歯ブラシはリ
サイクル可能になり、より長く使えるようになったのです。こ
の例については、後述でさらに詳しく検証します。  

すべての新製品が持続可能なようにデザインされる必要がある
だけでなく、現存のデザインも見直す必要があります。デザイ
ナーのディエゴ・マーサはメキシコの片田舎にある小さなワー
クショップで、大量生産向けのイスを開発しました。そのイス
に使用されている木材の量は従来の 1/4 ですが、そのスタイ
リッシュな外観が人気を呼び、従来のイスより倍の売上をあげ
ました。これにより、今まで伐採が進んでいた地元の森林への
負担が大幅に減りました。

まだまだ長い道のりです。環境パフォーマンスが優れていると
いえるものは、今日市場に出回っている工業製品とサービスの
わずか約0.001パーセントにすぎません。比較的多数の企業が製
品開発にのりだしており、約1億種類と見積もられる世界の市
場に出回っている製品のうち、潜在的に1000ほどの持続可能な
製品があると推定されます。いうなれば、持続可能な製品の開
発は必要不可欠なもので、どの企業が最初に足がかりをつける
かというだけの違いです。5年後に兆ドルのビジネスに成長す
る可能性のあるものについて、企業はすでに大がかりかつ戦略
的な投資をはじめています。

自然の教えから学ぶ

多くの環境改善は効率の改善によりなし得ます。省電力の洗濯
機を使えば、発電所では燃やされる燃料の量が減り、排気物や
汚染も減るのです。原材料の使用についても同じことがいえま
す。より少ない金属の使用が鉱物汚染を減らす、などです。こ
のコンセプトは「環境効率」として知られており、すでに浸透
しています。恐らく、より少ないエネルギーと原材料によって
仕事をすることが、環境にとってよいというだけでなく、コス
ト節約にもつながるという考えからでしょう。

けれども、節約については技術的、熱力学的にも限界がありま
す。前年に100個の製品を作るのに使っていたエネルギーを98
個分のエネルギーに抑えたりと、年間で約2%の改善をしてい
る企業もあります。しかし、世界はめまぐるしくなる一方なの
です。これしきの改善ではまるで追いつきませんし、競争に勝
ち残れるほどの優位性も得ることはできません。私共の概観か
らいえば、エネルギーと原材料の使用量は90パーセント削減、
つまり従来の10倍の削減が必要です。この「10倍削減」のアプ
ローチが大切でしかも大いなる挑戦なのです。しかし、これで
もまだ十分とはいえません。

環境効率を考慮するだけでは不十分です。効率の良いルートに
したがうだけでは、燃料効率の良いタイタニック号に乗ってい
るようなものです。――そう、煙突からはそれほど煙は出ませ
んが、それでも氷山に向かって進んでいることに変わりないの
です……。

地球上に生命が誕生して何十億年(正確には38億5000万年)も
経つといわれていますが、その長い歴史からわたしたち人類も
学べることが少なからずあります。自然から学び、今使ってい
るエネルギーと材料の質を変えることでほぼ完璧に持続可能な
状態に近づけます。例えば、太陽エネルギーを使えば環境にま
ったく影響を及ぼさないですむので、使用量を気にせず好きな
だけ、予算の許す限り使うことができます。もうひとつ、重要
なアイデアは、材料の流れを循環させるようにし、資源の枯渇
を防ぐということです。鉱物をリサイクルすることで、自然界
を模倣するのです。

また明らかに、栽培/飼育した原料を使うということもいいこ
とです。今では、とうもろこしや木材、大豆などの生分解が可
能な原料から非常に高度な技術と性能を持つプラスチックが作
られ、材料の選択肢に加わりました。

自然界のシステムを模した基本的なプロトコルを用いて大量生
産を行える可能性も高くなりました。持続可能な製品のデザイ
ンについては5つの要件があります。はじめの3つは植物や動
物の生態系で用いられているプロトコルの模倣です。

循環:製品の材料は、リサイクルまたはたい肥化できる有機
物、もしくは閉じられたループの中で連続的にリサイクルでき
る鉱物とすること。

太陽:製品の使用と製造の両方において、太陽エネルギーま
たは循環可能な安全で継続的に使えるエネルギーを用いること。

安全:製品は廃棄しても毒性がなく、かつ製造過程において
も毒物の排出がなく生態系を壊さないものであること。

4つ目の要件は、限られた資源を最大限に利用する必要がある
という考えに基づいています。

効率性:製品の製造過程と利用における効率は従来の10倍と
し、1990年の同量の製品を作るのに用いられた使用量と比べて
材料、エネルギー、水の使用を90パーセント削減する。

5つ目の要件はすべての企業が従業員や営業活動圏内にある地
域社会に対して影響力を持つという考えからです。

社会: 製品とその構成部材、原材料は従業員や地域社会にと
って公正で適正な労働条件のもとに製造されている。

ある製品を評価するにあたって、それぞれの要件に照らし合わ
せ、満点を100として点数をつけることができます。そして、
その採点を簡単なロゴや基本的な数字の指標として表すことも
できます。例えば、50|30|90|40|10 などのように。

100パーセント持続可能な産業システムについて、いくつかの分
野をのぞいては、持続可能な未来への鍵となる技術はすでに存
在しており、私共はそれらに関する技術的な基本資料単位を持
っています。大規模な革新がまだ必要とされているのは、電子
の分野やマイクロチップ製造などの分野のみです。

持続可能なデザインの目標は、すべての製品について、100パー
セント循環、太陽エネルギーの使用、安全性を実現することで
す。

持続性可能な製品のデザインは概念上でいえば難しいことでは
ありません。今まで 500点以上もの製品を分析した結果、私共
は、地球に優しい新製品のうち実に99パーセントが少なくとも
次の 11 の原則に基づいていることに気づきました。

1.循環を根付かせる。金属材料、ガラス、プラスチッ
クのリサイクルによってより循環効率が上がり、次のリサイク
ルもしやすくなる。または、循環とリサイクルがお互いに相乗
効果をもたらすこともある。
例)リサイクルのポリエステル材
で作られたパタゴニア社のシンチラフリースジャケット

2.循環的な栽培/飼育。栽培や飼育などによって得た
木材、皮、ウールなどの材料を有効利用することで、製品はよ
りたい肥化しやすくなる。または、栽培/飼育とその利用が相
乗効果をもたらすこともある。
例)Bamboo Bike

3.使用の際の代替エネルギーの利用。使用の際、
継続可能なエネルギー、または太陽発電を使用することによっ
て、より太陽エネルギー寄りの製品になる。
例)Clockwork
Toothbrush(ぜんまい仕掛けのハブラシ)

4.製造の際の代替エネルギーの利用。製造の際、
継続利用が可能なエネルギー、または太陽発電を使用すること
によって、より太陽エネルギー寄りの製品になる。
例)風力発
電で稼動している工場で製造された、ウルテクラム社のシャン
プー

5.材料の代替。有毒性の材料や部材を安全なもので代替
することによって、より安全な製品になる。
例)タングステン
社の弾丸(無鉛)

6.責任意識のある外注/調達。動植物の生息地を守
る意識があれば、製品はより安全になる。また、公正に取引さ
れたもしくは、森林管理協議会(FSC)が承認した森林など
環境への影響が小さい調達先から原材料の調達を心がけること
で社会的に貢献ができる。
例)Dolphin and
Albatross-friendly ツナ

 7.多くの用途。多機能やレンタルなど、より多くの用
途をユーザーに提供することで、製品はより効率よくなる。

例)Black and Decker社の 4機能工具・ドリル/サンダー/
ノコギリ/ドライバー

8.耐久性。より長持ちする材料を用いることで、製品は
より効率よくなる。
例)一生使えるほどのインクが入ったペン、
Spacepen Millennium II

9.効率。製造および使用の際のエネルギー、水、材料の使
い方次第で製品はより効率よくなる。
例)SoftAir社の
Inflatable Chair

10.生分解可能なものを。有機物やバイオミメティッ
ク技術を用いることにより、製品はより循環的で、太陽エネル
ギー寄りの安全なものになる。
例)Foxfibre社の天然染めコッ
トン

11.メッセージ性。通常、ユーザーの行動を変えるなど、
環境に配慮した製品はより良い環境パフォーマンスを導く情報
を伝える。
例)リサイクル表示のあるプラスチック製品

人々が複雑なライフサイクルの分析を行っているのにも関わら
ず、製品デザイナーに与えられている選択肢は比較的少ないも
のです。反面、これは、環境革新について考えるよりも実際に
着手することのほうが簡単かもしれないということを意味して
います。

今日過激に見えるものでも、明日には常識となるものです。
100パーセント持続可能な社会はただいつか実現するというも
のではなく、2100年には達成できる目標です。「どうしたら
それほど悪くないといえる状態になれるか」という考えから
「どうしたら 100パーセント良くなれるか」という考えに改
め、すべての製品が 100パーセント循環可能で太陽エネルギー
寄りの安全なものとなるよう、製品のデザイン見直しに自らの
能力を注ぎましょう。

上記の「11ステップ」のもうひとつの利益は、誰でも簡単に学
べるということです。私共のオンラインコースを受講すること
で「持続可能な製品をデザインできるデザイナー」として最初
のステップを踏みましょう。

Good luck!